まちだをふりかえる その6 〜成瀬・カフェ・みんなのいるところ〜

開催:2018年11月15日(木)

こんにちは。
いつも町田にいるキタムラです。

町田をぐるぐると歩いていると、どこにでも行ける訳ではなく、よく訪ねる場所があることに気付きます。
よく知り合いにばったり会う仲見世や文学館通りのあたり。玉川学園の駅前の通り沿いに小さなお店の並ぶ商店街。鶴川の団地と、バスにも乗らずに歩く坂道。相原の改札のパン屋さん、角の焼鳥屋、田舎に帰ってきたような気持ちになる穏やかな街並み。
町田駅前のビルの並ぶ景色とは違う、そんな「町田のはじっこ」にすっかり馴染んでいます。

成瀬の駅を降りた時に訪ねる場所は、3つ。パン屋さんと、喫茶イマジンと、桜並木のカフェ。
以前はスマホ片手にどの道で曲がるのか迷いながら進んだ道も、今では「まっすぐ進んで右」と考え事をしながらでも歩けるようになりました。春を待つ桜の坂道を下り始めると、いつもの笑顔が思い浮かびます。
今回お話を伺ったのは、「きみどりカフェ」の篠原里佳さん。

生まれて育った街、カフェを開いた街。隣近所としての町田のこと。
「ここにいる」ということは、決断するよりも確かな、実感なのかもしれません。

篠原「幼稚園の頃から町田なんです。引っ越したこともなくて。でも町田でもなく成瀬でもなく、南町田というか『鶴間育ち』っていう感じですね」

南町田の駅前 、グランベリーモールができる前はどんな景色でしたか?

篠原「東急ストアがあって、あとは大きな野球のグラウンドもありました。学校の遠足で集合するような時は駅前が待ち合わせ場所になっていたのを覚えています。何にもなかったんですよ」

グランベリーモールが開業したのは、2000年の4月。10代の篠原さんは、街の変化をどんな風に感じましたか?

篠原「意外な場所に急に綺麗な街が現れたという印象でした。それでも都会になったわけでもなくて、星空も見えたし季節も感じられました。どこか手仕事な感じの街でしたね。だから親しみが持てたのかも」

子どもの頃の行動範囲はやはり鶴間周辺ですか?

篠原「小学生の頃はバスや車には乗っても駅に出ることがあまりなかったんです。中学になっても部活と習い事ばかり。高校は神奈川の方を選んで、はじめて町田の外へ出ることになりました。それまで町田は…というか鶴間は、当たり前の場所。『生まれたところ』という意味があるだけでした。
仕事で都心や横浜方面に通うようになっても引っ越すことはなかったんです。だって、通えちゃいますからね」

意識はしていなくても、10代20代で離れたくなることや、住まいを変えることがないのは、なんだかすごく町田らしいですね。

大橋美里さんとおふたりでカフェを開くには、どんなきっかけがあったんですか?

篠原「きっかけという大きなきっかけがあったわけではないんです。
写真館で10年勤めていました。写真をやりたいというより、お客様と向き合える仕事だったんです。
同僚の大橋と将来のことを話す機会もあって、お店をやりたいとは話していました。
考えていたのは、写真の仕事をいつまで続けられるだろう?ということ。ずっと現場にはいたいということ。写真館で出会ったお客様や仲間の縁をつないでいきたいということ。
『じゃ、やる?』と自然に言えたのは、2人とも同じ方向を見ていたからですね。
すごく仲が良いとかもちろん悪い訳でもなく、仕事仲間。得意なこと不得意なことを補い合いながら、馴れ合いではない関係が保てているからこそです」

最初からお店はこの土地に決めていたんですか?

篠原「写真の仕事が横浜方面だったので最初はその周辺で考えていました。
ゆっくり過ごしてもらえるお店にするなら…と考えて、駅から徒歩10分15分までを候補に探していく中で現在の場所に辿り着きました。
この桜並木は、子どもの頃から車で通る時に眺めていたんです」

オープンして一年が経ちましたね。
どんなお客様がよくいらっしゃいますか?

篠原「何かのついでに立ち寄るという方はあまりなくて、みなさんこのお店を目指して訪ねてきてくださいます。車から見て気付いた方や総合体育館の帰りに寄ってくださる方、ご近所の方がお知り合いの方を連れてきてくださることも。
お店を始めてからいろんな方にお会いすることができました」

お散歩の途中に立ち寄ってくださる方も?

篠原「恩田川沿いにお散歩されるお話をよく伺います。穏やかで自由な、自分の時間を過ごせる場所ですよね。
お店の前の自転車のスタンドは、お客様が作ってくださいました。恩田川をロードバイクで巡る方も多くて、『スタンドがあったら仲間も連れて来られるし、好きなひとは喜ぶよ』と話してくださったんです。いつか作れたらいいなと思っていたら『じゃ、作る?』って」

このあたりは落ち着いた生活ができそうですね。

篠原「実際住みやすい街だなと思います。
公園も多いし緑地もあります。枝垂れ桜を綺麗にライトアップされているお宅もあります。電車好きなお子さんは、長津田の駅のそばの車両がたくさん停まっているところ、あそこが大好きなんですよね。ここからも歩いてすぐです。
物件探しで立ち寄ったお客様に、他のお客様がオススメを教えたりすることもありますよ。
お店のものも、この地域のものを使うようにしています。お野菜やパン屋さんも、珈琲の仕入れも」

篠原「年上のお客様から、生まれる前の昔のお話を伺うこともあります。お店の前の道が昔はなかったこと、田んぼでザリガニ釣りをしたこと、桑畑があったこと。成瀬駅が出来たのも40年ほど前ですよね。いろんな方のお話が頭の中で繋がっていきます。『成瀬に住んで長いんですか?』という質問が会話のきっかけになることもあるんですよ。
時々、駅前の方へ歩いていると、お客様が声をかけてくださることや、商店会の方とご挨拶することがあります。つながりができていくことが嬉しいんです。
成瀬の方はみなさん、この土地のことをよく話されます。誇りもある、知識もある。この街にはギュッとしたつながりがあります。
私たちはずっとここで生きていきます」

ワークショップも好評なんですね。

篠原「開店の慌ただしさが落ち着いた今年はじめからスタートしました。最初は、写真館のお客様だった方に講師をお願いしたんです。知り合いに頼んだり、声をかけてくれる方がいらしたり、地域で活動されている方を募集したり。
1周年を迎えた9月からは、講師の先生方と月に一回、マルシェを開催しています」

いろんなことが始まりましたね。

篠原「ちょっとずつ、ちょっとずつですね。皆さんの撮ってくださった『きみどりカフェ』の写真をカウンターのスクリーンに写せたらいいなとも思っているんです」

生まれた街、育った街、生きていく街で、できることを少しずつ続けていくこと。
日々会うひとたちとの会話が、街のあり方を形作っていくのかもしれません。

篠原「まだこれからのことですが、お店で待っているだけでなくて、写真を撮ることで地域の施設へ出かけて行けたらいいなと思っています」

「きみどりカフェ」
住所:東京都町田市南成瀬6-12-13(JR横浜線 成瀬駅より徒歩10分)
電話:042-865-1501
メール:info@kimidoricafe.com
営業時間:10:00 〜 19:00
定休日:月曜日

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文・写真 北村友宏