「まちだをふりかえる その5 〜横丁・地元・これからのこと〜」

開催:2018年9月15日(土)

こんにちは。
いつも町田にいる北村です。

相原、鶴川、玉川学園、いろんなところへ出かけたくなりますが、やはり一番馴染みなのは町田駅前です。
小田急線町田駅から「ハンズのあったとこ」で通じるあっちの方へと進みます。東急、ジョルナを通り過ぎ、ターミナルロード商店街へ。やがて仲見世商店街からその隣の、飲み屋の多い大和横丁。
もう少し進んで次の角を左に曲がると、昨年オープンされたばかりのカレー屋さん「THE SPICE」があります。

歩き慣れると意識しないけれど、よく通る道というものがあります。こちらからも行けるけれど、あそこへ行くならこっちから…というような。そんなクセみたいなものから気付くことがありました。

今回お話したのは、日常と歴史とこれからのこと。
はじまりは「THE SPICE」店長の松原桃子さんのこんな一言でした。

松原「この通りって名前がないんですよね」

通りの名前

大和横丁には街灯にその名前が掲げられています。
仲見世商店街も横丁のような役割の通りですが、今や町田の名所のような存在になっています。
だけど、そのすぐそばの"この通り"には、どこにも名前が見当たりません。
詳しく教えていただこうと、「THE SPICE」の斜向かいの「内藤ビル」のオーナー・内藤太郎さんを訪ねました。

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内藤「名前は、いろんな呼び方があったんです。みんな違う覚え方をしていました」

昭和55年(1980年)、町田駅前の再開発により原町田駅は、小田急線側へ、現在の横浜線町田駅の位置へと移設されました。
それまでは現在のminaのあたりに原町田駅があり、その前にはバスターミナルが広がっていました。

内藤「ここは原町田駅の正面から数えて1つ目の通りでした。そのため『一番通り』や『駅前通り』と呼ばれていました。
『一番口』という呼び方もありましたね」

55年の再開発では、カリヨン広場の整備や、伊藤隆道・作「動く彫刻」の設置など、
現在の町田駅前の特徴として自然に記憶されているものが出来始めた時でした。
(「動く彫刻」は「駅前のぐるぐる」という呼び方のほうが聞き慣れているかもしれませんね)
内藤さんのお話を伺っていると、それ以前の街並み、長屋のような建物が続く街並みが、
ぼんやりとした記憶の向こうに浮かび上がります。

横丁のこと

かつての小田急線から原町田駅までは、通勤のサラリーマンたちが毎朝走り抜けていたことから、
「駆け足通り」と呼ばれていました。
現在、原町田大通りとなっている位置には、「都南デパート」がありました。
仲見世商店街よりもモダンな空間だったそうです。
通り過ぎるための横の道、買い物や食事を楽しむための縦の道。
町田らしい2つの特徴が混ざり合っていることが、街の歩き方からも分かります。

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「一番通り」と呼ばれていた頃の通りは、どんな様子でしたか?

内藤「『THE SPICE』の2階の『KENT』は、元々1階も使っていました。喫茶店というよりも、お酒が中心のお店ですね。
今も昔からの馴染みのお客さんが通っているみたいです。
それからもう一軒。駆け足通りの終点、原町田駅の正面あたりにミルクスタンドがあったんですが、その店主のご夫妻が『ちゃお』という喫茶店を始められました。一番通りの真ん中あたりにありましたよ。」

学生も入りやすいような喫茶店でしょうか?

内藤「学生向けというより、街中で食事をするのにちょうどいい、昔ながらの喫茶店でしたよ。しょうが焼き定食が美味しくてね」

今、駐車場になっているあたりはどんなお店がありましたか?

内藤「小料理屋の『ひろみ』と、それから他にも何軒かお店が並んでいました。少しずつ駐車場に変わっていきましたね。
『ひろみ』の女将さん、よくノラ猫にエサあげてたなぁ。
アジア料理のお店のところは、郵便局でした。郵便局が移転した後に床屋になりました。
この通りは、ほとんど変わらないんですよ。お店は入れ替わるけれど」

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町田で四代続く乾物屋「河原本店」の河原一慶さんにも駐車場の周辺の様子を伺いました。お店の名前がすらすらと出てきます。

河原「うちの隣が『重田陶器店』、その後ろに重田さんのとこの駐車スペース。それから郵便局。
道を挟んだ向かいの江成建具店の木材倉庫があって、その隣が小料理『ひろみ』。床屋はその隣じゃないかな」

内藤さんと河原さんそれぞれのお話から、記録とはまた違うあの頃の街並みの歩き方や親しみ方が伝わってきました。
通るひとそれぞれに、別々の名前で呼ばれていた"この通り"。それほど日常的に親しまれていたのかもしれません。

いまとこれから

平成14年(2002年)には原町田大通りが開通し、駅前の街並みは一変しました。
それでも、「変わり続ける」という街のあり方自体が変わらないことが、町田駅前の特徴です。
だとしたら、現在の"この通り"を歩くひとびとの面影から、
変わらずに続く街の個性が見えてくるかもしれません。
再び「THE SPICE」の松原さんにお話を伺いました。

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「THE SPICE」にはどんな方々がいらっしゃいますか?

松原「お仕事の合間のランチにいらっしゃる方や、おひとりでも気軽にいらしていただけますね」

入り口の窓ガラスが大きくて、店内も明るい雰囲気ですよね。
通りの様子を眺めていて気付くことはありますか?

松原「やはり地元の方がよく通られるようですね。同じ方をお見かけする印象があります。
それから、時々、まわりの様子を見回しながら歩いていらっしゃる方もお見かけします。もしかしたら映画ファンの方かもしれませんね。
内藤ビルさんがロケ地となってから遠くからもファンの方がいらっしゃるそうです。
週末には綺麗に着飾った方が通ります。お隣の『六九和』さんや、イタリアン、鰻のお店もありますから。ハレの日のお食事なんでしょうね」

たしかに平日には歩き慣れた方や、お仕事で行き来する姿が目に止まります。
駐車場に車を停める方々も、買い物でいらした方よりも仕事の行動範囲になっている方が多いのかもしれません。
通りを抜けるために左折した車が、杖をついて歩くおばあちゃんの歩みに合わせながら、ゆっくりと進んでいました。
地元のひとたちにとってのいつもの通り。そんなあり方はやはり変わらないようです。

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「ハレの日」のお客様に選ばれる「六九和」の店主・中村康治さんにも"この通り"の印象を伺いました。

中村「これからの新しい通りだよ。若いひとたちも多いしね」

その一言から、お店を構えることで街の魅力を形作ろうとする料理人の意気込みが伝わってきました。
日常の中にハレの日に相応しいお店が増えたことはひとつの変化です。
しかし、それは今までのような開発や大通りの開通による変化ではなく、ひとりひとりの情熱による変化なのかもしれません。

もうひとつ、この通りの新しさとして目にとまるのは、河原本店さんの店舗横に描かれた壁画です。
お隣が現在の建物になる前に、絵画教室「アトリエ一番坂」の個展が開かれたことがあり、
落書き対策を考えていた商店会から制作を提案されたのだそうです。


河原「もう10年近く経ちますね。色が薄れてきていましたが、少し前に塗り直してくれたんですよ。
昨年末には、今は画家として活動されている林絵美さんに、新しく海老の絵を描いていただきました。
向かいの陶器店は早くに駐車場になっていましたが、その隣の酒屋さん、小料理『ひろみ』の壁面にも描かれて、
三面が絵画に囲まれた空間だったんです」

アトリエのみなさんとの縁ができたことを何よりも喜んでいらっしゃる様子でした。
馴染みのお客さまは、電車で訪ねて来られる方も多いそうです。
買い物だけでなく会話が広がることを楽しんでいらっしゃいます。

河原「昔はお店同志も横のつながりが強くて、お互い助け合っていました。人情味がありましたね」

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人と人との距離が遠くなった時代。
それを退屈に思い、新たな試みに挑戦する世代も現れました。
もしかしたら、かつて街のにぎわいを支えた方々が求めるものと同じものを目指しているのかもしれません。
街のこれまでとこれからをつなぐのは、やはり縁です。
新しいきっかけは、この街にもきっとあるはずです。

内藤ビル・お金のなる喜
住所・東京都町田市原町田 4-7-3 3F
電話・042-785-5005
営業時間・10:30~18:30
定休日・水曜日
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THE SPICE(ザ スパイス)
住所・東京都町田市原町田4-6-15 1F
電話・050-5285-7690
営業時間・11:30~15:00/ 17:30~22:30(土日祝11:30~22:30)
定休日・水曜日
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六九和(ロクワ)
住所・東京都町田市原町田4-6-12 1F
電話・050-5349-6419
営業時間・18:00~翌0:00(土日祝日のみ11:30~14:30)
定休日・水曜日
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河原本店
住所・東京都町田市原町田4-6-8
電話・042-722-2066
営業時間・10:00~19:00
定休日・無休
▶︎HP

文・写真 北村友宏