町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー〜 <アーティスト:横山大河>

開催:2023年1月15日(日)

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第25弾は色鉛筆画を使用した綿密な作品を描かれているアーティスト:横山大河さんです。

横山さんは生活の中で見えてくる「美しいと感じた風景」の絵画作品を制作されています。

作者が23年間を過ごした五月台、柿生、相模大野の周辺風景をモチーフとした作品や、
町田の<お気に入りの場所や物>を描いた新作の「町田のドローイング」も展示します。
会期中はワークショップ「色鉛筆で葉っぱを描いてみよう」も開催。


横山さんに作品制作についてのお話や、今展示と、ワークショップのおすすめポイントなど、様々なお話を伺いました。

■色鉛筆を使って絵を描かれるようになった理由を教えてください。

元々、小学生の時に通っていた絵画教室で油絵を描いていて、大学1、2年生ぐらいまで、油絵の具やアクリル絵の具を使用していました。ですが、ちょっとうまく描けないな、苦手だなということをずっと感じていて、試しに色鉛筆で描いてみたら、結構自分には合っていたんです。他の画材よりも自分で思ったような絵が描きやすくて、今でも色鉛筆を使い続けています。その時、色鉛筆を使おうと思ったのには理由がありまして、小学校の時、友達のお父さんにお誘いを受けて、絵本作家の黒井健さん(※1)のアトリエに伺ったことがあるんです。黒井さんは、「ごんぎつね」とか、他にも沢山の作品を描かれている方で、その時に色鉛筆で描かれた作品を沢山見せて頂きました。絵本の絵や、静物画や風景画などの作品がとても印象に残っていたことが、色鉛筆を使うきっかけになりました。

(※1)黒井健 - 日本の絵本作家、イラストレーター。新潟県新潟市生まれ。2003年5月、「黒井健絵本ハウス」開館。絵本「ごんぎつね」「手ぶくろを買いに」(偕成社)「ころわん」シリーズ(ひさかたチャイルド)などで知られる。

■横山さんの作品は、色鉛筆での非常に細密な描写が魅力的ですが
 現在の技法になったきっかけをお教えいただけますか?

僕はテレピンという油絵用の溶き油を使用していて、色鉛筆で描いたところをそのテレピンで叩くと、描くだけでは出ないような複雑な色の散らばり方になるんです。描いて、テレピンで叩いてというのを繰り返していきながら、色を重ねて画面を作っていく技法ですね。黒井健さんもテレピンを使用されていて、その技法を参考にしたことがきっかけですね。
あとは、補色(※2)を重ねて色味が複雑になるようにしています。僕は、油絵を元々勉強していたので、その技法を色鉛筆で取り入れているというのがきっかけかもしれないです。例えば、赤い物を描こうとした時に、陰の部分は暗い赤にするために補色を重ねます。すると、赤の補色は緑なので、一旦赤い物が緑になったりするんですね。完成品を見るとわからないのですが、一旦違う色になってしまうところが、ちょっとややこしいかもしれません。油絵だと一般的な古典技法なんですが、それを色鉛筆でしているのは、もしかしたらめずらしいかもしれないですね。あとは地道に、頑張って描くという感じで、特別なことはしていないです。

(※2) 補色 - 色は光の波長の違いによって、赤・橙・黄・緑・青・紫というように変化して知覚される。これを連続的に配列し円環状にしたものを、色相環という。補色とは、色相環で正反対に位置する色の組合せのこと。

■1つの作品を制作されるのにどれくらいの時間をかけられてますか?
大きさや内容によりますが、例えば一番小さい0号ぐらいのサイズの作品だと、平均して一ヶ月くらいかかります。今回展示する物で、一番大きい作品が1m60cmくらいになりますが、そちらだと半年ぐらいですね。これは結構早い方です。ただ、どうしても広い面を塗る時は時間がかかってしまうので、80号以上の大きい作品を描く時は、1年以上はかかります。全部鉛筆の先の少しの面積でちょっとずつ描いていくため、サイズが大きかったり、濃い色の部分が多かったりすると、時間がかかりやすくなります。

■作品を制作される上でのこだわりを教えてください。
色鉛筆という画材にこだわりすぎないようにしたいと思っている所ですね。色鉛筆ってすごく身近な画材で、油絵を触ったことがない人はいても、色鉛筆に触れたことがない人は、あまりいないと思うんです。僕の作品を見てくれた方が、「色鉛筆でこんなに描けてすごいね」と言ってくださることがあるんですね。もちろん、それも嬉しいのですが、絵を評価するとなった時に、色鉛筆だからすごいというのはあまり意味がないと思っています。油絵や、日本画でも同じように描けるのであれば、わざわざ色鉛筆でなくてもいい。色鉛筆だからすごいというよりは、色鉛筆でしかできないことをちゃんと探していきたいなと思っています。とはいえ、仮に違う画材の方がすごく効率良くできたり、うまくできたりするのであれば、色鉛筆にこだわらずにどんどん違う画材や、表現を変えていってもいいと思っています。絵を単体で見た時に、その画材でしか表現できない良い作品にしたいとは思っています。

■今回、「日常の中の美しい風景」を展覧会のテーマとされていますが
 お気に入りの風景や場所などはありますか?

特定の場所や物というものはあまりなくて、決めたくないと思っています。描く物を決める時は、気に入っている物を描くこともありますが、あまりそうは思わない物をあえて選ぶこともあります。描くとなると、それのいいところを探すと思うんです。描いた後には、その物との距離が、ぐっと近くなると思っています。それで、自分の周りにそういう物が増えてくると、より楽しく生きられるんじゃないかと考えています。始めから、お気に入りの場所があるというよりかは、絵に描くことで、どんどん自分の中で好きな物を増やしていきたいと思っています。なので、そもそもすごく気に入っていたり、綺麗な場所は、反対にあまり描かないかもしれない。分かりやすい良さがあるものをわざわざ絵にする必要はないのかなと思っています。

■7~30歳までの23年間を五月台、柿生、相模大野で過ごされ、町田にもよく来られていたとのことですが、町田での思い出や好きな場所などはありますか?
町田市立国際版画美術館のある芹ヶ谷公園が好きです。あとは、こがさかベイクの内装がとても好きで、よく訪れていました。また、以前町田市立中央図書館で展示したことがあり、すごく高さのある建物で変わっていて、面白いなと思いました。それと、今はもうないと思うのですが、東急百貨店(現 町田東急ツインズ)の上にプラネタリウムが昔あって、2回ぐらい行ったことがあり、すごく好きでした。こちらも今はもうないかもしれませんが、茶房中野屋というカフェがあって、そこもすごくお気に入りでしたね。

■影響を受けた、または好きなアーティストはいますか?
憧れるのは、会田誠(※3)さんや、Chim↑Pom (※4)さんなど、社会的なテーマを扱っているような現代アートの作家さんですね。自分にはできないことだったりして、かっこいいと思う部分があります。僕の作風とは全然違いますが、ああいうことができたらすごくいいなと思います。あとは坂口恭平 (※5) さんも好きです。絵を描いたり、小説を書いたり、「いのっちの電話(※6)」という活動をされていたりと、彼の活動は、美術家としてだけでなく、人としてすごくいい生き方をされているな、自分もそんな生き方ができればいいなと思っています。

(※3)会田誠 - 日本の現代美術家。美少女、暴力、戦争、エログロなどを作品のモチーフとしている。
絵画、写真、立体、パフォーマンス、インスタレーション、小説、漫画など表現領域は国内外多岐にわたる。
(※4)Chim↑Pom - フロントウーマンのエリイ、リーダーの卯城竜太ほか、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求から成る6人組の空間芸術の現代アート集団。消費社会や震災、原爆といった社会課題をテーマに、映像作品を織り交ぜたインスタレーション作品を中心に制作・発表している。
(※5)坂口恭平 - 日本の建築家、アーティスト。熊本県出身。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。
(※6)いのっちの電話 - 坂口恭平が2012年から続けている、自らの携帯番号を公開し、自殺願望を持つ人の相談にのる活動。

■横山さんは色鉛筆画の講師もされていらっしゃるのですね。
 今回、葉っぱを色鉛筆で描くワークショップを開催されますが、色鉛筆で絵を描く楽しみ方や、魅力をお伺いできますか?

色鉛筆は色を重ねていくことで、色が変わっていったり、一回描くだけでは出ないような色合いができるので、そこがやはり魅力だと思います。あとは、画材がとても手軽なので始めやすいというのも利点だと思いますね。ただ、色鉛筆は向き不向きがある画材だと思っていまして、僕の絵の描き方だと、結構地道な作業が必要になってくるので、素早く描きたい人には、ちょっと辛い作業かもしれないと思います。ちまちました作業をずっと無心で続けるのが好きな方には、楽しんで頂けるのではないかなと思っていますね。あとは、画材の見た目がコレクション的にもいいんじゃないかなと。色鉛筆って並べた時に沢山あると見た目がすごく綺麗で楽しいと思います。描くこととは違う楽しみ方ではありますが、そういう部分も魅力の一つだと思いますね。

■YouTubeで「横山ラジオ」を投稿されていますが、YouTubeを始めたきっかけについて教えてください。
「横山ラジオ」は、絵を描きながら雑談をしている様子をただ映している物なのですが、始めたきっかけは、インスタグラムの中に、インスタライブという生放送ができる機能があり、それを三ヶ月に一回ぐらいのペースでやっていたんですね。それを何人かの方が見て下さっていたのですが、インスタライブは基本、リアルタイムでないと見ることができないんです。そんな中で、「リアルタイムの視聴は難しいけど見たかった」という声がありまして、それであればいつでも視聴できるようなコンテンツがあったらいいかなと思い、試しにYouTubeに動画として残す形にしました。

■最後に、パリオにいらっしゃる来場者の皆様に
 今回の展示の見どころや伝えたいことがあれば教えてください。

色鉛筆の絵は、美術館で展示されている機会が他の画材に比べて少ないのかな?と思います。ですので、実際の絵肌を見てもらえたら嬉しいなと思います。あと、今回の展示では絵だけではなく、youtubeチャンネルの映像を流したり、横山商店という自分で作ったグッズを販売するコーナーがあったりもして、この人は一体なんなんだろうな?という風に思われるかもしれません(笑)。僕は、一応現代アート的なことをしたいと思っているのですが、絵を描く以外にも思いついたことを色々としているので、絵だけを展示するのに比べて、こうしてごちゃごちゃと色々な物を展示してる様子が来場者の方にどう見えるのか、ちょっと聞いてみたいという気持ちがありますね。
僕は、描くことでその物がお気に入りに変わったらいいなという思いで絵を描いています。大切な物や風景って、どの人にもあるのではないかなと思うので、作品を見た方が自然と自身の、大切な風景に思いを馳せられるような展示ができたらいいなと思います。基本的には自由に見て頂きたいのですが、そんな風に作品を見た人に思って頂けたら、嬉しいなと思います。

横山大河 プロフィール

1985年北海道生まれ神奈川育ち。
2009年東京造形大学絵画専攻卒業。
色鉛筆を主な画材として絵画作品を制作している。
近年の主な個展に2021年「風景持参2」(ヘルツアートラボ)、
2020年「葉っぱのプリズム」(はいいろオオカミ+花屋西別府商店)などがある。
絵画制作の他に神奈川、東京で色鉛筆画の講師も務める。

パリコレッ!ギャラリー vol.25
横山大河「風景持参3」

横山大河氏は、色鉛筆を使用した綿密な描写で生活の中で見えてくる
「美しいと感じた風景」の絵画作品を制作。
作者が23年間を過ごした五月台、柿生、相模大野の周辺風景をモチーフとした作品や、町田の<お気に入りの場所や物>を描いた新作の「町田のドローイング」も展示します。会期中はワークショップ「色鉛筆で葉っぱを描いてみよう」も開催。
色鉛筆の細密描写で再発見する「美しい」瞬間をお楽しみください。
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