町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第20弾は町田市在住のアーティスト:米澤寛子さんです。
今回はモノタイプという技法で制作された版画作品を中心に展示されています。
米澤さんの作品について、さまざまお伺いしました。
●米澤さんと版画の出会いを教えてください。
高校生の時に通っていた美術予備校の先生が版画を制作していて、そこから興味を持ちました。進学した大学は油絵専攻の中に版画コースがあるところだったので、最初の2年間は油絵をやって、版画を学び始めたのは大学3年生からですね。木版画、銅版画、シルクスクリーン(*1)、リトグラフ(*2)など、一通り学びました。
(*1)シルクスクリーンとは…版上の穴を通してインクを下に刷りとる技法の総称。孔版画とも呼ばれる。
(*2)リトグラフとは…化学反応と油と水の性質を利用し、絵柄の部分にだけインクを刷る技法。平版とも呼ばれる。
●数ある版画技法の中でも、現在はモノタイプをメインで制作されていらっしゃいますが、モノタイプを選んだきっかけは何ですか?
卒業制作ではリトグラフを選んだのですが、最初は制作の工程をこなすだけで精一杯でした。やっていくうちに段々とコツを掴んでくるものの、それでもなんで失敗したのかわからない時もあって。制作が割と思い通りにいくモノタイプをストレス発散のために制作していました。
●モノタイプの具体的な制作方法を教えて下さい。
アルミ板に油絵具で絵を描いていき、描いているうちに変えたい部分が出てきたら布で拭き取り消します。描き終えたらアルミ板の上に湿らせた紙を乗せ、プレス機で圧着させます。版にインクが残っていればもう一度刷ることはできるのですが、薄くなってしまうので基本的には一枚しか刷れません。刷り上がった作品を見て、「ここが違うな」と思ったら描き直してまた刷って・・という繰り返しです。頭の中にあるイメージをひたすら描き刷っていく感じですね。
●今はどちらで制作されていらっしゃるのですか?
町田市高ヶ坂にある「版画工房カワラボ!」で制作しています。私はプレス機を使うので工房に通っていますが、モノタイプを気軽に体験したい方はばれん(*3)を使っても良いと思います。ポール・ゴーギャン(*4)もモノタイプの作品がありますが、スプーンを使って圧着させていたみたいです。プレス機は卓上タイプのものでも気軽に導入できませんが、圧着力が強いので、薄い描写や細い線もそのまま紙に写してくれる点がメリットですね。
(*3)ばれんとは…木版画の制作において、版木にのっている絵の具を紙へと転写させるための道具。
(*4)ポール・ゴーギャンとは…19世紀のフランスの画家。
●モノタイプの魅力を教えてください。
頭の中のごちゃごちゃしたイメージを、気軽に作品にできることですかね。
大学で油絵をやっていた時はなかなか完成させられないタイプで、描いたものを次の日に見ると全部消したくなります…。モノタイプはある程度限られた時間の中でもとりあえず作品が完成するので、私の性格と合っていますね。あとは、絵を描く人は大概最初にきちんと下書きをしてから描き始めると思うのですが、私は全然それをしないタイプで(笑)リトグラフや木版画は基本的には一度失敗したら戻せないので、最初にどういうふうに作るか綿密に考えていく必要があります。その点では、モノタイプはアルミ板の描画も都度消せたり、刷り上がったものを見て「じゃあこうしてみよう」と描き直してすぐ刷ることができるので、とても気軽に制作できますね。
●なぜ「日常の小さな小さな記憶」をテーマに制作されようと思ったのですか。
元々はストレス発散のために制作していたので、特にテーマを設けて制作しようとは思っていなかったんです。出来上がった作品をあらためて見ると「日常で見ているものを描いているな〜」と思いました。自分が自然に「描こう」と思ったものが「日常の小さな小さな記憶」だったのかもしれません。帰省する時に電車の車窓から見えた風景とか、台風の日の風景とか、器や花瓶に入った花など、様々なモチーフで制作していました。コロナ禍になってからは家にいることが多くなったので、以前と描くモチーフも少し変わってきたかもしれません。
●米澤さんが思う町田の魅力を教えてください。
徒歩圏内でほぼ全てが済んでしまうことが本当に便利ですね。なんだかんだ、町田には12年ほど住んでいます。
●町田のお気に入りスポットはありますか?
原町田大通り沿いにあるイタリアン「オステリア ウチェッロ」のパスタが好きです!クリーム系の生パスタが特に好きですね。あと「キッチンハウスたんぽぽ」のお弁当は、ヘトヘトな時に閉店間際に駆け込んで買っています。たんぽぽのお弁当を食べると「ちゃんと野菜食べてる!」って感じがするので、ここがないと私の食生活は終わってしまいます(笑)
●来場者に向けて一言どうぞ。
今回はモノタイプの作品を36点ほど、ドローイングの作品を8点ほどを展示します。今回の展示に向けて、新作もたくさん制作しました。また、会期中はモノタイプ制作が体験できるワークショップも開催します。アルミ板の上に絵の具で絵を描き、卓上プレス機で刷ることができるワークショップです。気軽に体験できるので、ぜひ参加していただけたら嬉しいです。
米澤寛子 プロフィール
愛知県生まれ、町田市在住。2009年名古屋造形大学卒業。2013年版画工房カワラボ!第1期研究生。
日々感じたことや日常の風景をリトグラフ、モノタイプなどで表現する。
パリコレッ!ギャラリー vol.20
米澤寛子
「フウケイフウミ」
ラフな輪郭と柔らかな色彩で、対象物をより印象的にうつしだしている米澤寛子の作品。
今回は、植物や瓶、風景など日常の小さな記憶をテーマに、モノタイプ技法で制作した作品を中心に展示する。