町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー〜 <アーティスト:まちのひアートクラブ>

開催:2022年3月8日(火)

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第18弾は町田市にある【社会福祉法人まちのひ】のアートクラブによる、まちのひ芸術展「生きているから描くんだ」を開催。〝何が正しいかではなく、何が楽しいか!〟をテーマに、様々な障がいを持ったメンバーがこころのままに描いた作品が並ぶ、総勢50名による大展覧会です。
今回は、アートクラブの工房に伺い、スタッフの皆様へその想いを伺ってきました。

●皆様がまちのひアートクラブに入ったきっかけを教えてください。
鈴木さん:ぼくは最初、支援の非常勤の職員として入り、食事やトイレ介助、支援記録をつけたりしていました。段々といろんな仕事が増えていく中で、「このまま仕事を続けていけないかも…」と思い悩んで相談をしたところ、美大卒ということで美術の方面で関わってほしいとお話をいただき、それから支援をやりながら利用者さんと一緒にアート活動をやり始めました。最初は今のようなアートクラブの時間というものではなく、利用者さんの仕事と仕事の合間の休憩時間に「ちょこっと絵を描いてみようか!」という感じで、描いたものを少しずつ集めて大きな作品にして飾ったり、そのうちに渡邊さんや佐藤さんがスタッフとして入ってきてどんどん活動が広がり、今のアートクラブという形になりました。

渡邊さん:私の場合は、末っ子の息子が障がいを持っていて、息子が小さい時に同級生のお母さんに助けられたこともあり、恩返しというとおこがましいのですが、何か協力できることや力になれることがあったら…という形で、最初は障がい者の方を目的地にお連れするガイドヘルパーとして始まりました。ヘルパーの仕事は、ご利用者の方の活動が終わってからやるのですが、日中の支援活動も知りたくなり、今の施設に相談し、支援のサポートと給食を運ぶなどの仕事をするようになりました。それがちょっとずつアートの時間に関わる様になり、今に至ります。

佐藤さん:僕は鈴木さんの大学の後輩で、鈴木さんから「アートクラブの活動を一緒に働かないか」と声をかけてもらったのがきっかけですね。始めは週1から始まり、別の事業所の人手が足らないということでアート以外の支援も週3くらいやり始めて、もう8年くらいは続けています。

●障がい者の方の支援の仕事は、当初ハードルが高く感じたりしませんでしたか?
鈴木さん:そうですね、ハードルはたぶん高かったと思います。僕の場合はこの施設で働く前に、別のところで障がいのある方達の少人数の絵画教室を受け持っていて、その当時は障がいのある方たちに接するのは全く0からの状態だったので、絵画や造形を通してなんとかコミュニケーションをとっていく感じでした。どうしたら描いてもらえるかって必死で考えたり、ひとつひとつ検証しながら関わりを作っていった感じです。その経験があってここに来たので、造形活動の方が自然に入れたというか、支援の方が毎日ガチガチに緊張しながらずっとやっていました。

佐藤さん:僕の場合、まちのひに入る前に障がい者の方への介護の仕事をしていて、身体障がいの人のお風呂やご飯のお手伝いや、大学生を学校まで案内するとか、そういう手伝いをやっていました。ただ、ここにくるまでは知的障がいや発達障がいの方との仕事はなかったので、最初は緊張というか、恐る恐るやっていたところはあります。始めのうちは課題など滅茶苦茶細かく考えたんですけど、たぶん自分自身どういうことか全然わかっていなくて、試行錯誤しながらずっとやってきて、今はようやくリラックスしてやれているというか。僕も利用者さんもお互いにそうだと思います。

●アートクラブで気をつけていることはありますか?
鈴木さん:少し前に大学の非常勤をやっていた時があって、自分の教室でも大人から子供まで、幅広く人をみているのですが、言うことはいつも一緒ですね。今も障がいがあるからこういう教え方をしよう、とかっていう感じでもないですし、どうしたらその人らしく、その人の良い感覚で描いていけるかっていうのをいつも考えています。

佐藤さん:僕も子供向けのワークショップは色んなところでやっていましたが、子供ってなんか頭が良くて、色々考えないといけない難しさがあるんですよね。うまく見せようとして描いてくる子供もいたりして、そういうのがちょっと「うーん・・」と思うところがあって。それもあってか、障がいのある人のほうがあんまりそんな打算的なところがなかったというか、このアートクラブをやってみたいと思ったひとつの理由でもあるかな。

学校を卒業して18歳の頃から10年くらい通っている飯田さん。
いつも大好きなキティちゃんを描くのが好きなんだそう。
お話好きで自分の好きなものをいろいろ教えてくれました。

工房に所狭しと積み重なった作品の数々。

描いたり描かなかったり、それぞれがマイペースに。

好きな色を混ぜて、思いのままに模様を描くのが好きな杉原さん。
施設へは15年通っているそう。
みんなのことを気にかけ、「マスク外れてるよ
~」など声をかけながら、
素敵な絵を描いてました。
好きな時間は?と尋ねると、布巾を折るお仕事が好きなんだそう。
「(布巾
に入れるチラシに載っている)みんなの絵をいろいろ見れるから!」
施設では毎日いろんなことをやって忙しいと話
してくれました。

●皆様それぞれアート制作もされていますが、障がい者の方々のアート活動に携わることで、ご自身の作品の変化はありましたか?
鈴木さん:そうですね…変わったんですかね?!自分ではわからないですが(笑)多分これを見たからこう変わったということではないですが、影響はすごく受けていると思います。自分が制作をしていく上で、障がい者の方の作品に興味があるというか、いいなと思うものがすごくあって、それがたまたま障がいを持った人たちの作品だったということが何回もあったので、「それはどういうことなんだろう。」って、興味が湧いたというところはあります。なんかこれを見て「考えろ」とか「どうだすごいだろう」とか言われるような感じじゃなく、なんかもうそのままドンッ!って、響くだけというか。本当ストレートにぶつけてくる感じが「ああ本当にいいな、こういう風に描きたいな」って思います。

佐藤さん:鈴木さんのことは昔から知っていますが、彼らの作品から直接的に受けた影響と言われるとちょっとわからないですが、でも一回鈴木さんの作品展示を見にいった時に、構えている感じがだいぶ薄れたような、なんかネジが二、三個取れたような絵になっているなと感じましたね。その部分でやっぱり関係があるのかなと思いました。
僕自身の作風だと、変わったといえば変わったと思いましたけど…。僕ももちろん障がい者の人の描く絵は良いなとは思うけれど、僕の絵の方がいいと自分では思ってるから(笑)なんか別の土俵で戦ってるというか、お互いに全然違う良さがあると思います。僕がここでアートクラブをやっているのは、多分そういう自分の持っていない良さを見ることで、自分が変な方向に進まないよう正してくれるというか。例えば、作品が高い金額で売れるとか、有名になるとか。こっちをやっているおかげで「ちゃんと良い絵を描かないと」と思うし、アートとの向き合い方みたいなところで、考え方に影響を受けていると思います。

渡邊さん:その人その人によって描く絵や個性も違うから、表現の仕方とか全然違っているんですよね。本当に大きな意味で夢中になれる作品に向き合えるというか。みなさんの「描いていると楽しい」という気持ちを、私達は見守るというか、ちょっと本当におこがましい言葉にはなってしまうけれど。自然にそれを見ていられることが嬉しいし楽しいです。
アートって言葉がなくてもそれだけで繋がれる感じがして。特に絵だと特定の場所に限らずどんどん広がりを作っていけて、すごいなって思います。人と人との繋がりもそうですし、作品に対しての気持ちの広がりだったり、色んな感想とかに出会えたり。
最初は自分の子供に障がいがあるってわからなかったんです。そう言われたときに、初めて障がい者の世界を知って、でも自分は健常者だから健常者の世界もあって。それがここでの活動を通して、最終的に「この世界って一緒じゃん。」って思えたんです。みんな同じ時代に生きているし、同じ空気を吸っていることが初めてわかったというか。障がい者と健常者を繋ぐのがアートかなって、最近になって「繋がり」をすごく感じていますね。

●一緒の世界ですが、、、その感覚ってすごいですね。私はまだハードルを感じてしまうので、素直にすごいなって思います。
渡邊さん:障がい者の方に関わっていないと、どうしてもそこに境目があるように感じてしまいますもんね。でも、本当にそうですね、彼らの作品を見ていると、なんか惹かれるものがあって、繫ぐきっかけの扉があるというか。それが私も感じた感動だったのかなとも思います。今回の展示でそれがまた広がったら良いですね。

●展示会を開催すると、利用者さんの反応ってやっぱり違うものですか?
鈴木さん:発表したり、賞を獲ったりとかでモチベーションになる良さもありますけど、みんながそうではないですね。だからってただ描いていればいいとかでもなくて、やっぱりこうやって色んな人たちが関わってくれたり、活動を広げていくことで描いていく環境が少しずつ変わっていくっていうのは、利用者さんにも返ってきているもので、次へ繋がるものになっているのかなと思います。アートクラブのこの環境も最初の頃には考えられなかったです。単純に大きくなっているということだけじゃなく、「やりたい」っていう利用者さんが増えてくることもそうだろうし、関わってくるスタッフも変わって、周りがだんだんと理解を深めてくれて、アートクラブのあり方とかを考えてくれるようになりました。
あとは続けていることで、利用者さんの絵が良くなっていくのもあるし、経験値が増えている感じはしますよね。こういう風に描いたらこういう風になるんだっていうのがどんどん積み重なって色んな表現になったり。具体的にレベルが上がったとかではないんですが、昔のものと比べると変化していたり。逆に全然変わらなかったりというのも、それはそれですごいなって思います。 

●アートクラブの活動で、気をつけていることはありますか?
佐藤さん:別に誰が決めたとかはないけど、自然にできた三人の役割というか、バランスはいいなと思います。鈴木さんがちゃんと楽しくいいものを作っていける先生みたいな感じでみんなが信頼していて、渡邊さんはいろんなところで細かくサポートしていて、僕はただただ変なことをしてふざけて笑って、それを鈴木さんが正すみたいな。気をつけることは3人それぞれ違うかも。

渡邊さん:各々の気持ちは一緒なのかなって思います。ご利用者の方はビス巻き作業などの仕事の時間もあるんですけれど、アートクラブはそれとは違う空間なので、そこから解放されて自分の好きなことを楽しく過ごす時間や場所でありたいなと思っています。仕事の時とは全然違う表情をする利用者さんがいたりして、そういうのを見ていると、グループ担当の人や親御さん、他の職員にも、「こういう顔もするんだよ」「こんな絵を描くんだよ」っていつも見せたいなって思いますね。それもあって、展示会とかすごく必要なものだとは思います。

鈴木さん:僕は結構ちゃんとしないと怖いっていうか、どうでもいいやってなかなかなれないんですよね(笑)結構課題が固いっていうか…、その反面それが壊れるのを望んでいるところもあるし。毎回プレッシャーはあります。どうしようって思いながら、未だにすごく悩んでドキドキしながら僕はやっていますけどね。

渡邊さん:それで私達はバランスが取れている(笑)

アートクラブのスタッフのみなさん
左から鈴木俊輔さん、佐藤修康さん、渡邊眞理さん

●アートクラブの工房名が「ふれあい亭」ですが、皆さんが大事にしている根本がそのまま名前になっている感じですね。どなたが名づけたんですか?
鈴木さん:前の前の所長で、現理事長の森さんです。ふれあい亭はアートクラブだけの場所ではなくて、色々と多目的に使っていく為の場所なんです。

渡邊さん:ここでは陶芸とかお茶の時間を過ごしたりすることもあるし、イベントなんかでちょっと使ったり、色々と使っています。でもほとんどはアートクラブの活動で、「アートクラブといえばふれあい亭!」という感じはあります。

●ふれあい亭はとっても居心地がいいですが、地域の方など誰でも遊びに来ていい場所なのでしょうか?
鈴木さん:ここは閉じてはいないので、「来たい」っていう人がいたら開放的にしたいと思うし、なにか一緒にやることで生まれてくることも期待したいとは思います。ただ、それをするためのパワーじゃないですけど、対応などが現実的になかなか作れてないかなと。

渡邊さん:社会福祉法人まちのひの中にもたくさんの事業所があるので、法人内でもここに集まって、なにかやりたいとかは思いますね。あとは、別施設の町田生活実習所では陶芸をやっているんですけど、そこは地域の方も参加できます。

佐藤さん:そうですね、利用者さんも一緒にやっているので、障がいのある方と関わったことのない人もちょっとだけ関わる機会があります。

渡邊さん:陶芸教室以外にも、市役所で〝ハッピーかわせみ〟にてグッス販売も行っています。あとは公民館カフェや市民フォーラム、生涯学習センターでアートクラブのメンバーの絵を飾っています。

●地域との関わりという点で、版画美術館でユニーク展示会を開催もされてましたが、一般公開のような形をとり始めたのはいつ頃からですか?
鈴木さん:2015年頃ですかね、ユニーク展示会という活動は僕がくる前からあったのですが、アート作品がメインのユニーク展示会は10年たってないかもしれないですね。
地域との関わりと、利用者さんのご家族への活動発表という両方の目的があるんじゃないでしょうか。

●今回のパリオでの展示についてお伺いします。『生きているから描くんだ』のタイトルはどういう経緯・想いで決まったのでしょうか。
鈴木さん:今回の展示では、個性的ですごく魅力的な作品が並びます。描きかけの絵や失敗作、それから、みんなが描いている道具や場所の様子も、全部含めて見てもらい、アートクラブメンバーのパワーを感じてもらいたい!そんな想いがあり、「生きて描いていること」を丸ごと表現するイメージでタイトルを考えている時に、生きているから歌うんだ~♪の曲が頭に浮かんで、「生きているから描くんだ」のタイトルをつけました。

●最後に、来場者の皆様へ一言お願いします。
アートクラブのみんなのパワーを感じてもらって、ワクワクした気持ちになって、私も何かやってみようかなぁ〜と少しでも思ってもらえたら嬉しいです。そこから障がいについて考えたり、いろんな繋がりができたら、もっと嬉しいですね。

まちのひアートクラブ プロフィール

「社会福祉法人まちのひ」のアートクラブができて10数年、休憩時間のお絵描きがきっかけでスタート。ひとりひとりの言葉にならない表現を大切に「アートがつなぐ豊かな世界」を目指し楽しく活動中。

パリコレッ!ギャラリー vol.18
まちのひアートクラブ芸術展
「生きているから描くんだ」

様々な障がいを持ったメンバーが心のままに描いた作品の数々が一堂に会す、“ワクワクドキドキ”の超一流のアーティスト達による、まちのひアートクラブの芸術展を開催。
たった一つの点や一本の線でも、ぐちゃぐちゃのなぐりがきも、ちょっとヘンテコなこだわりも・・・
言葉にならないそれぞれの表現を大切に。

まちのひアートクラブの作品は、少しずつ輝きを増しながら人々の心を動かし始めています。
‘生きているから描くんだ’を体感ください。

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