町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」の第14弾は、
オグロエリさんによる紙とデザインの展示です。
2021年9月25日(土)より、パリコレッ!ギャラリー vol.14オグロエリ「カミノサーカス」~一枚の紙からショーがはじまる~の開催にあたり、グラフィックデザイナー・イラストレーターとして活躍するオグロさんにお話を伺いました。
■グラフィックデザイナーになりたいと思ったのはいつ頃からですか?
絵は子供の頃から好きだったけれど、きっかけは高校1年生の時で、友達と見に行った渋谷のギャラリーの展示で、雷が落ちたというか「好きなことってやっていいんだ!やりたいことってやっていいんだ!」ってハッとしたんです。それからまっしぐらで、高校卒業してデザインの専門学校にいき、卒業後はデザイン会社に就職しました。
■デザイン会社ではどのようなお仕事をされていたんですか?
最初の会社は、マス広告と呼ばれる、駅貼りポスターや電車の中吊り広告、新聞広告などを代理店と一緒に制作するデザイン会社でした。大手企業の広告を作ることも多くて、そういう仕事は広告代理店と一緒にやらないとできないので凄く勉強になったし、いい経験になりました。ただ、大きなものって、だれにどこまで届いているかわからない部分があって、例えば大きい駅貼りポスターを作った時、嬉しくて見に行くんですけど、興味ある人しか見ないから、大体だれも通る人が見ていないんですよね。結局どのくらいの人に届いて、結果どうなったのか、とか全然わからなくて。もうちょっとダイレクトに個に届くような仕事をしたいなと思い、別の会社に入りました。そこでは、お店のPOPやDM、冊子ノベルティーなどを作りました。
※マス広告…「テレビ」「新聞」「ラジオ」「雑誌」の媒体上で掲載されている広告のこと。 この4媒体を「マスメディア」「マス」という。
■独立したのは、なにか転機があったんですか?
最初の会社を辞めたあとに少し時間があったので、ポストカードブック大賞というコンテストに応募したんです。20枚くらいのイラストをポストカードにしたものを送って、大賞になったら一冊の本にして出版化されるというもので。そこで大賞をいただき、ちょこちょこイラストのお仕事が入るようになりました。次にいった会社では自分の仕事も両立できたのですが、段々と自分の仕事が忙しくなり独立をしました。
■オグロさんはお店のショップカードから、アーティストのグッズ、知育玩具と、幅広く活躍されていますが、そういうお仕事はどうやって決まっていくんですか?
1つの仕事からご縁が繋がっていった様に思います。独立した後にお客さんとして通っていたカフェがあって、その店主と仲良くなり、そこのショップカードを作ることになったんです。その仕事、場所での出会いから今のいろんな仕事に繋がったものが多かったですね。そのカフェはいろんな人が集う場所だったので、CDジャケットやグッズを担当させていただいている中山うりさんやHARCOさんも、そこでライブを開催されたということもあって繋がりました。きっと誰もが最初は仕事がなくて、知り合いの方のものを作ったりしていくうちにいろいろ繋がっていくんだと思います。
■町田にもデザイン関係を目指す学生さんがいますが、グラフィックデザイナーになるためアドバイスをいただけますか?
会社に入ってもフリーランスでも、思い続ければ必ず道は開けると思います。私は会社で印刷のノウハウや入稿の仕方とか基礎を学べたり、大きな仕事に携わることができたので、デザイン会社に入って良かったです。やはり学んだのは学校よりも現場です。でも、学校は同じ志を持つ仲間に出会えるから、それはいいですよね。特に専門学校とか美大とかって、ライバルであり仲間というか、今も活躍している友達から刺激もらえますね。そして独立した後の方が「やるしかない」というところで学びが多いですね。
■一般の方からすると意外だと思いますが、チラシとか作る時って実はイラストレーターとデザイナーって別でいますよね。その点、オグロさんは両方の仕事をされていますが、なにか違いを感じますか?
私はコンセプトやターゲットから考えるクセがあるので、そういう意味では私はアーティストではないと思うんですよね。アーティストとデザイナーってたぶん全然違って、デザイナーはクライアントに寄り添って答えていくとていうか。絵を描くことは小さい時から好きですし、イラストレーターとしてのお仕事もしますが、絵を描く時も、デザインのことは考えてます。なので、私は脳がデザイナー気質だと思います。イラストとデザイン、トータルで組み立てていけるのは楽しいですね。
■デザインする上でのこだわりはありますか?
最近、デザインされたものが世の中にすごく増えてきたなって思います。スーパーや百貨店などに並ぶ食品やステーショナリーなどを見ていても、かっこいいというか、スタイリッシュなものが増えたなって。どんどんデザインが溢れてきていて、それはすごくおもしろいです。一方で、例えば駄菓子屋さんはデザインされすぎてないのがよかったり。あんまり整え過ぎると、良い時とそうでない時があって、文字とか全部打って綺麗にデザインし過ぎると、ちょっと冷たくなっちゃたり。デザインをする時は、そのお店や人の魅力をうまく残していきたくて、やさしさや味わいを残しつつの塩梅には気を付けていますね。
■日常生活でこれは職業病だなって感じることはありますか?
文字は凄く気になって、ついグラフィック的な目で見ちゃいますね。例えば、打ったままだと文字の間隔は同じではないんですよね。そういうのが気になったり、あと色は凄く目に入ってきますね。尊敬するデザイナーの方が作ったものとか、やっぱりすごいなー、美しいなーって思いますね。あと、電車の中吊りとかも見ていると脳内でデザインしちゃって、こうやって作ったんだろうな~って工程を想像しています。
■制作に入ると没頭しすぎて徹夜もしばしばだとか?
制作に入ると、ずーっとそこのことを考えていますね。
紙をいじっていたら誰もいらないというか(笑)入り込むと時間と寝食を忘れちゃうので、金曜日に始めたことが、終わったら日曜日の朝になっていたとか。ふらっふらでしたけどね。好きなものはずーっとやっているっていうのは小さい頃から変わりません。制作が佳境になると集中しすぎて、それ以外のことが抜け落ちています。洗顔フォームと歯磨き粉を間違えたり、反対方向の電車に乗ったり。なので、仕事以外はポンコツって言われてます(笑)今はいろんな仕事の兼ね合いがあるので、没頭できる時間は幸せですね。
■知育玩具は学生の頃からの夢だったとか。
そうなんです!学生の時にみた『ソトコト』という雑誌の海外の知育玩具特集で衝撃を受け、子どもが遊びながら学べるなんてすごくいい!と思い、「私はこういうことがやりたい!」って思ったんですけど、知育玩具の会社にはすぐには辿り着けなくて。それで一旦デザイン会社に進んだんですが、独立後、子育て雑誌のイラストのお仕事で出会った担当の方が、〝道具で子どもの発達を応援する「tobiraco」〟を設立されて、以前に雑談程度に話した私の話を覚えていてくださって、お声掛けをいただきました。それで、一緒にいろいろな道具を作ることになったのです。ついこの間、その『ソトコト』に、tobiracoの特集が掲載され、それらの知育玩具が載っていて!感激でした。これをあの頃の私がみたらすごく喜ぶだろうな~って(涙)だから、なにかやりたいことがあって、それにダイレクトにいけなくても無駄なことってなくて、ずっと思い続けていたらいつか辿りつくんじゃないかなって思います。知育玩具を作りたいというのは一番の夢だったので、本当に夢が叶ったなぁって思いますね。
■以前パリオでお仕事をお願いした時に、私達の大事にしているところを見事に押さえられていて、オグロさんの寄り添い方ってスゴイなって思ったのですが、仕事をする上で大切にしていることってありますか?
10年くらい前に、「想像を超えた時に感動が生まれるんだよ。」って大切な人から聞いたことがあって、それから仕事を始める時は、まずA4用紙に「想像を超えた時に感動が生まれる」ってしばらくは意気込みを書いてから始めていました。ロゴマークにしても、ショップカードにしても、相手の期待、想像を越えたいと思っています。あとは今の自分はこれ以上できなかったよなって思うところまではやるようにしています。今できる最大限の努力をする、ということは心がけています。
■今回の展示について伺いますが、まずテーマをサーカスにしたのはなぜですか?
普段のお仕事だと、いつも相手の求めるものを突き詰めていくなかでアイディアが生まれてくるんですけど、今回のカミノサーカスはここのギャラリーっていうことで生まれました。今こういう状況が続いているので、楽しいことをやりたかったというのもあり、来てくださった方が『楽しいー!』ってなるものを作ろうと思いました。パリコレッ!ギャラリー企画は、いわゆる絵を飾ってそこに値段がついて、、、みたいなそういうギャラリーでも展示とかでもないと感じたので、じゃあ、壁にとらわれず空間全部を演出できるんじゃないかって。ここだったらそういうことができるんじゃないかって考えていったら、サーカスに繋がりました。
■80㎡ほどの空間を全部使ったダイナミックな展示ですが、作成過程を教えてください。
まずデザインをパソコン上作り上げ、最後に実際のサイズに合わせて紙に落とし込みます。デザインしたらそれを縮小版で印刷して組み立てるんですが、実際作ったらイメージと全然違っていることもあるので、その二つの工程を何度もいったりきたりする感じです。今回の展示は5カ月前くらいに“カミノサーカス”というテーマを決め、それから数か月かけて練ってきました。最初のラフを見返すと、「この程度のものをやろうと思っていたのか!」って恐ろしくなっちゃいますね(笑)たぶん企画を描いたラフが100枚ほど積んであります。結構、熱い想いが走り書きで書いてあって(笑)字を書く時間も惜しいから殴り書きで、その上からさらに書き込むからぐちゃぐちゃですけど。「これがサーカスだ!」みたいな深夜の殴り書きがあるかも(笑)
■今回、町田の大きなMAPをつくられたとか!作品のために町田探訪もされたそうですが、町田を歩いてみてどうでしたか?
本当に自然がすぐ隣にあるっていうのは感激しました。駅周辺はなんでもありますし、ちょっと行ったら薬師池公園や芹ヶ谷公園などあるし。それはすごく魅力的ですね。鶴川団地や武相荘もよかったです。今回の展示で町田の大きな半立体マップを作ったのですが、町田の観光名所以外に、実際に歩いて私が気付いた‘さり気ない町田’みたいな場所もでてきます。団地多いな~とか。もしこの畑や恩田川でサーカスが繰り広げられたらどんなだろう!というのを妄想しながら歩いていたので、取り上げている場所はサーカスの視点で切り取った町田という感じです。マップは来場者の方もスゴロクのようにコマを立てられる仕組みなので、一緒に楽しんで作り上げてもらえたら嬉しいです。
■カミワザともいえる、紙の様々な表現をしていますが、オグロさんにとって紙の魅力は?
紙ってすごく身近で、誰でもどこででも手に入る、そこが魅力だと思います。たった一枚の紙から、街もできるし、花も咲かせられるし、折ったら動物もでてくる。こんなぺらぺらのものから、ちょっと切ったり折ったりするだけで、うわーって世界が広がっていくのが魅力ですね。今回の展示では、特に紙ということにこだわって、他の素材でも作れるなって思うものはあえて作らず、紙ならではのしなやかさと張りでできるものを考えました。また、すごいワザをやっているわけではなくて、簡単で誰でもできる、ちょっとしたことで表現することを大事にしています。こういうご時世ですが、ちょっとしたことで今日が楽しくなったり幸せになったり、日々の工夫というか、そういうことで見える景色も変わってくるんじゃないか、というのが展示を通して一番伝えたいことです。壁面の最後に、タテ2mヨコ3.5mくらいの大きな繋がる絵本を作ったんですが、そこに想いを込めました。展示をみて、楽しい!やってみよう!って、感じていただけたら嬉しいです。
パリコレッ!ギャラリー vol.14
オグロエリ「カミノサーカス」
〜1枚の紙からショーがはじまる〜
スーッと切って、パタパタ折って、クルクル巻いて、
クリンとくり抜き、サクッと差し込む。
フワフワ、カクカク、コロコロ・・・
いろんなカミワザが会場を彩り、そして共に作り上げる。
紙のエンターテイメント。
日 付:2021年9月25日(土)~10月3日(日)
時 間:11:00〜18:00 ※10月1日(金)20:00まで
会 場:3F ギャラリー・パリオ
▶︎詳細はこちら