町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第11弾は現代美術家4名によるグループ:四草(しそう)の絵画・インスタレーションの展示です。
今回、韓美華さん、布施久美子さん、早川陽子さん、宗岡さと子さん(左から順)にお話を伺いました。
■皆様の出会いを教えてください。
布施さん:以前、私の方でギャラリーのオーナーさんに展示のお誘いをいただき、実際に会場を見たらとても広い会場だったので、ふと直感的に宗岡さん、早川さん、韓さんとのグループ展が思い浮かびました。作品は全く違う雰囲気の4人ですが、なんとなく合うような気がして。宗岡さんは中学から大学まで同じ学校に通っていた友人です。早川さんは高校時代に通っていた美術予備校が一緒で、よく展示を見に行ったりしていました。韓さんは社会人になってから通っていたテンペラ教室で知り合いました。
宗岡さん: それまで私と早川さんと韓さんの3人はとくに繋がりがなく、その時の展示の打ち合わせで始めてお会いしましたね。
韓さん:どこかのタイミングでまた4人でやりたいなと思っていて、今回パリオさんからお話をいただき、2回目のグループ展を開催することが出来ました。前回の展示から、もう10年近く経っていることに驚きました。
布施さん:「四草(しそう)」という名前は今回の展示から名付けたグループ名で、早川さんが考えてくださったんです。
早川さん:はい。雑草って普段、空中に種が舞っていて、ここだ!って決めた地面にふわ〜っと根をおろして花が咲くんですよね。私たち4人も、普段は別の場所で活動しているんですけど、ここだ!って決めたところに集まる、みたいな。そんなイメージで名付けました。
■今回の展示のタイトル「町なかのツリーハウス」はどういった意味が込められていますか。
早川さん:ツリーハウスは、町田駅に降り立った時に思いつきました。駅前に大きいデッキがあって、地上と空中どちらにも町があるように見えるのがツリーハウスのようで。
■今回展示されるそれぞれの作品についてお聞かせください。
早川さん:今回、リスの男の子を主人公にした物語の絵を展示します。今回の展示タイトルにもあるツリーハウスと物語を絡めたくて、物語をずっとどういう話にしようか悩んでいました。そんな時に町田にリス園があると聞いて、主人公をリスにしたらすっと話がまとまりました。リスがすごい大きいどんぐりを拾って、しめしめと自分の家の地下に隠したことから物語が始まります。
早川さん:色鉛筆画を本格的に始めたのは2012年くらいからで、始めたきっかけは出産による生活の変化です。それまでは油絵の具や化学物質を使い制作をしていたのですが、子育てをする中で子どもに一番安全で、なおかつ自分が片付けやすい色鉛筆を使うようになりました。色鉛筆はかなり尖らせて描いていて、「塗る」というイメージではなく、線を重ねて「描く」イメージです。
韓さん:今回の作品は「町⽥⼋景」と題した、蜜蝋を⽤いた転写技法を使って制作した作品です。
八景という名の通り、私が長年親しんだ町田の風景を8つ切り取り、画面に写し、その上から様々な個人的な記憶を元に油彩でペインティングした作品です。
韓さん:構成はやりながら考えて行くタイプです。画面と画材と対話をしながら描くイメージです。アクリル絵の具はすぐ乾くので、瞬間瞬間を重ねていくことが出来て、自分に合っているんだと思います。
布施さん:今回は「呼吸」をテーマに作品を制作しました。今、コロナ禍によって、世界中の人々が息苦しさや生きづらさを感じていると思います。その中でも自分のリズム、自分の呼吸を取り戻すことができれば、見えてくる光と景色があるのではないか、と思っています。
布施さん:今回、13世紀〜14世紀頃に西洋で発祥した古典技法:テンペラ画で制作をしています。テンペラ画とは、粉の顔料と卵と水と防腐剤を混ぜ合わせたものを絵の具として使います。出会ったのは20年以上前で、当時仕事で心身ともに疲れ果てていたのですが、テンペラで描かれた宗教画(*)を見て、「習ってみたい!」と思い教室に通い始めたのがきっかけです。宗教画をテンペラで模写する行為は自分を無に出来る唯一の時間で、癒しでした。
*宗教画とは…宗教上の目的のために、宗教に関する事象を描いた絵画のこと。著名な作品は、レオナルド・ダヴィンチ作「最後の晩餐」、ミケランジェロ作「アダムの創造」など。
宗岡さん:今回、水の流れのエネルギーがぶつかって生まれる「渦」をテーマに作品を制作しました。水の流れに一瞬でも同じ状態はなく、そういったうつろう姿を共有したいと思っています。「渦」をテーマにした作品は2018年から制作しているのですが、今回の展示は、「渦」がちょうど色々なことに結びついたように感じました。例えば、町田駅前の人の波が渦のように感じること、現在の世の中が渦巻いていることなどです。
作品の鮮やかな色合いは、ガラス製品やステンドグラスのきらめきが好きで、それを画面に投影しています。作品はギャラリーのサイズ感と合わせることが多いので、ある程度大きい作品を作ることが多いです。
■4人展と個展では何か違いを感じますか?
宗岡さん:制作って日々の忙しさの中でどうしても埋もれてしまうので、それをもがきながらでも続けていくことが大事だと思っています。そんな中で制作を続けている3人の作品を見ることは、自分の原動力になりますね。
布施さん:自分の作品を制作するときも、相手の作品の雰囲気を少し考えたりして、みんなで一緒に空間を作りあげていく感じがあります。
早川さん:個々で制作しているのに、皆が隣で制作している感覚ですね。
韓さん:そうですね。繋がっているな〜と思います。
■制作の中で自分のルーティンはありますか。
宗岡さん:つなぎを着ることですかね。作品が大きいので、つなぎを着ないと服が汚れちゃうんですよね。これを着たらもう描くしかない!ってスイッチが入ります。
早川さん:朝、子どもが学校に行ったら洗濯機を回して、コーヒーを淹れたら制作を始めます。コーヒーは大好きで、制作には欠かせません。
韓さん:制作中は音楽を必ずかけています。最近はKPOPを聞くことが多いです。私は音楽が栄養素ですね。
布施さん:ラジオを聴くことです。子どもの頃からラジオが好きで、最近はJ-WAVEばかり聞いています。制作は一人なので、人が話しているのを聞くと寂しさが紛れます。
■特別イベント「わたしのわくわくツリーハウス」についてお聞かせください。
早川さん:町田駅前から着想を得たミニチュアツリーハウスに、透明な素材で作ったカラフルな葉を枝に挿す体験型の立体作品を展示します。このツリーハウスにはリスが住んでいて、今回、私が展示する作品の物語とつながる仕掛けとなっています。様々なイベントが中止になる今、一人ひとりにできることは小さいながら、このリスの町を通して、葉をひとつ挿すだけで彩りが増え、みなさんの元気が蘇れば…そんなイメージで制作しています。
■皆様多摩地域に所縁があるという事ですが、印象や思い出はありますか?
宗岡さん:私と布施さんは女子美術大学に通っていました。相模大野からバスに乗って通学していましたね。
布施さん:和光大学の非常勤講師をしていたこともあり、今回の展示もそうですが、なんだか小田急線に縁があるな〜と思っています。
早川さん:私は多摩美術大学に通っていて、八王子の山深い場所にありました。当時は近くに羊小屋があったり、きつねが出没したり、すごくのどかでしたね。周りに誘惑が何もなかったので制作するには抜群の場所でした。
韓さん:小4の時から町田の周りを転々としています。東林間、相模大野、玉川学園…もうこのあたりは住んでいる期間が長すぎて、好きとか嫌いみたいな感覚を超越しました(笑)
■来場者へのメッセージをどうぞ。
様々なイベントが中止になる昨今、今をどのように過ごすか、常に模索の日々が続きます。私たちもまさに手探りでこの展覧会を作り上げました。私たち一人ひとりができることは小さいですが、ご来場の皆様に展覧会を楽しんでいただけたら、きっとそれはこの町の元気につながるものと信じています。夏のキャンプ場のようににぎやかな、私たちの作品が集った「町なかのツリーハウス」に是非いらしてください!
四草 プロフィール
現代美術家4人によるグループ。
●早川陽子:多摩美術大学大学院修了。個展・グループ展多数開催。2003年八王子美術館『美術誕生』奨励賞。2004年豊田市美術館『とよた美術展』入選。
●韓美華:朝鮮大学校卒、U美術研究所で学ぶ。AFAF AWARDS 2016 ギャラリーモリタ賞、あーとらんどギャラリー賞受賞。
●布施久美子:女子美術大学卒、イタリア美術留学。現在、ATELIER Fiore(アトリエフィオーレ) 絵画教室代表。
●宗岡さと子:女子美術大学大学院修了。2000年頃より個展の開催を中心に制作活動中。
パリコレッ!ギャラリー vol.11
四草 四人展「町なかのツリーハウス」
町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第11弾!
色面の鮮やかさと筆遣いのリズムで身体性を感じさせる韓の絵画。「渦」の躍動を抽象した宗岡の絵画。キャンバスという「窓」から人や町の息遣いを見つめる布施の作品群。小さな絵で作者と鑑賞者の関係を問う早川。今回、会場を「ツリーハウス」に見立て、4人の作品が集った「美術のキャンプ場」を開く。
日付:2021年7月12日(月)〜17日(土)
時間:11:00~18:00(最終日17:00まで)
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