町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第10弾は町田市内を中心に活動をされている「華道 草照流(そうしょうりゅう)」によるいけばな展です。
今回、家元の藤澤照瑛(ふじさわしょうえい)先生(右)と、副家元の吉田晃照(よしだこうしょう)先生(左)にお話を伺いました。
■いけばなの歴史を教えてください。
いけばなは600年近い歴史があり、暮らしや建築のスタイルと共に変化してきました。例えば平安時代に生まれた寝殿造(しんでんづくり)(*1)は壁が無い開放的な空間のため、いけばなも高さ180cmを超える巨大なものでした。室町時代になると、建築のスタイルが寝殿造から書院造(しょいんづくり)(*2)に変わり、空間の中に壁が生まれ、一部屋が小さくなりました。その流れと共に、いけるお花も小さくなりました。
*1寝殿造とは…平安時代中期に完成した貴族の住宅様式。一部屋が大きく、扉やすだれ、屏風などで仕切りを作っていた。
*2書院造とは…室町時代に始まり桃山時代に完成した武家の住宅様式。
■いけばなで大事なことはなんですか。
お花の出生や性質を知ることが大事です。出生とは、「植物が自然の中でどのように生きているのか」ということです。知らないと、せっかくいけたお花も綺麗に見えません。花は太陽に向かって咲くので、いけばなでは必ず花は上を向いています。また、お花の性質を知ることによって、いけたお花を長く美しく見せることができます。例えば、ススキの美しいたおやかな曲線を長持ちさせるには、お酢を飲ませてあげると良いです。フジはお酒を飲ませると長持ちします。特に焼酎がお好きみたいです(笑)バラは茎の部分を焼く、ツワブキは針でつついてわざと傷つけてあげる…など、お花によって扱いも様々です。
また、いけばなは、お花を好きにならないと上手になれません。…そうはいっても、好きになれないお花もあると思います。ですが、好きになれないのは、魅力を見つけることができない自分の想像力不足だと私は思っています。30年近く前になりますが、生徒にお稽古をつけていた時にキブシというお花を使いました。私は当時その植物が好きではなく、「芋虫がぶらさがったみたいな植物」なんて思っていたのですが、生徒がキブシを見て「まあ可愛い!」と言ったんですね。私はそれを聞いてハッ!っとしました。キブシは、3月頃に花を咲かせる植物で、まだまだ寒い季節にいち早く野山に色を添えてくれる花です。生徒はそれを知っていて想像できたのでしょうね。私はなんて想像力がないんだ、ととっても恥ずかしくなったのを今でも覚えています。「今見えているものの背景を想像すること」これが華道が教えたかったことかな、と私は思っています。
■いけばなのパワーってどのような物だと思いますか。
いけばなは、人の心に訴えかけられる力と癒しを併せ持っていると思います。昭和の世界大戦の時代では、いままで良しとされてきた価値観が全部だめになり、否定され。そして辺りは一面焼け野原で、食べる物も、着る物も、住むところもなくなりました。当時の人間はどうやって生きていけばいいかわからなかったそうです。そんな時に、いけばなの展覧会を開こう、と考えたいけばなの先生たちがいました。使えるお花は焼け焦げた柱から少し生えている野草、器も空き缶などしかなく、こんな時に誰が来るの?とも思ったそうですが、蓋を開けてみると、お客さんの長蛇の列!そしてお花を見にきた方々が皆口々に「まだ日本は大丈夫、立ち直れる!」と、泣きながら言っていたそうです。それくらい、いけばなは人の心に何かを訴えられる力を持っていて、そして華道は「華の道」と読むように、花が人に生きる道を教えてくれるものだと思っています。
■草照流の活動について教えてください。
草照流は、家庭の中のどんなスペースにでも合った花をいけられるようになることを目的としています。「いつでも・どこでも・誰にでも・何にでも(花器にこだわらず)」をテーマに、華道の素晴らしさをお伝えしたいと思っております。お稽古以外では、町田市民ホールの迎え花や、町田市成人式のお花、また町田総合高等学校の華道講師をしています。この夏からは、町田市民ホールで町田総合高等学校でいけばなの授業を専攻している生徒たちが生け込みをすることになりました。実は今年から、町田市が南アフリカとインドネシアのホストタウンになったそうで、その2つの国を表現したお花を展示しようと思っています。今は生徒たちと一緒に、国に住んでいる人々の暮らしや、気候、どんなお花が咲くのか…などを調べているところです。
■いけばなをする時の必要な道具を教えてください。
・ハサミ
普通のハサミでも良いのですが、切る時に繊維が潰れてしまう恐れがあるので、出来れば花切り用のハサミが良いですね。花切り用のハサミが無い時はカッターの方が良く切れます。最近は100均でも花切り用のハサミが売っていますね。すぐダメになってしまいますが、使い始めは切りやすいので、気軽に使えるハサミだと思います。
・花器
どんぶりやお皿でもいいです。
・花巾
いけばなは生けるだけではありません。お花の周りも常に綺麗にしておかなければなりません。
・剣山
花や枝の根もとを安定させるために使う道具です。
■お花を生ける時は、着物は着られますか。
いえ、着物にこだわらず、動きやすい服装でいいと思いますよ。いけばなは住まいとともに変化していくものですから、住まいが変われば花を生けるひとのファッションも変わっていっても良いんじゃないでしょうか。また、今はフローリングのお部屋が主流ですから、フローリングのお部屋で稽古しています。どうしても、畳のお部屋でいけたお花はフローリングに合いません。時代に合わないものは変えていき、守っていくものとの区別をしていくことが大事だと思っています。
■最初に構成を全て決めてから生けますか。それとも生けながら考えていきますか。
どちらもありますね。あとは、枝にハサミを入れる時に「間違って短く切っちゃった!」という偶然からアイデアが生まれることもありますね。そういう時は切ってしまった枝を必死で生かそうと考えますから、通常のお稽古では学べないことができます。失敗は恐れず、活かせばいい。と生徒には教えています。
■お花を生ける上でコツはありますか。
全ての枝や花を調和させていくような感覚で生けています。全体を生かすことによって、バランスが取れて調和が保たれます。「わたしも大事、あなたも大事」ということをいけばなから教えられているように感じます。
■今回の展示についてお聞かせください。
今回、若手だと21歳の作品から、様々な年代の方の作品が10点ほど並びます。また今回、従来のいけばなの他、異質素材と花を組み合わせることに挑戦しました。異質素材とは、植物以外の素材です。花は、人間と触れ合う時間が長いものを組み合わせた方がしっくり来ます。なので、鉄もピカピカなものより錆びたものほうが不思議としっくり来ます。今回は発泡スチロールボードや鉄、ステンレス、ペットボトル、プラスチックなどをどうやって生花と調和させるのかを考えて、作品をつくっています。また、今回はコロナをテーマに作品づくりをしてみようと思っています。マスクやSTAY HOMEをどうやっていけばなで表現するか、頑張って考えているところです。
また、今回はいけばな体験のワークショップも開催します。カラフルな荷造り紐で花器からつくることができます。このワークショップでは剣山は使いません。やり方さえ覚えてしまえば、いつでも気軽にいけばなをすることが出来ます。小学生から参加できるので、是非親子でもご参加いただきたいですね。
■来場者へのメッセージをお願いいたします。
現在、コロナ禍で憂いや鬱憤の溜る日々を送らざるを得ない状況と思われます。今回の展覧会では現在の状況を憂い嘆くだけではなく、明日に向け歩んでいく姿を作品を通して表現できればと考えております。
華道 草照流 プロフィール
主に町田市内を中心に活動。いけばなの魅力を若い世代にも広めることを目的とし、都立高校や市内小学校でのいけばな授業を行っている。その他にも各施設での迎え花や、作家とのコラボ展、様々な華道展へも積極的に参加している。
パリコレッ!ギャラリーvol.10
華道 草照流「発創展 ~想像と創造~」
町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第10弾!
花はそのままでも美しい。植物との組み合わせはとても相性が良い。では植物以外の異質素材とはどうか。今回、従来のいけばな(自由花)の展示に加え、人間と関わりの浅い異質素材をあえていけばなに取り込むことに挑戦し、これまでとは異なる、新しいいけばなの世界をお届けする。
日付:2021年6月2日(水)〜8日(火)
時間:10:00~17:30 ※最終日16:00まで
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