町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」の第12弾は、我楽(がら)さんによる展示です。
2021年8月21日(土)より、我楽個展『言食写真-夏-』を開催にあたり、
言葉と写真の魅力についてお話を伺いました。
■今回の展示が『言食写真』というタイトルですが、これはどういう意味ですか?
この“言食写真”という言葉が生まれたのは、大学生の時のグループ展で、詩のような文章を写真と組み合わせた時に、これはどういうジャンルなんだろうか、と考えて付けました。私は言葉を“音”として使っているところがあって、詩を音読してほしいんですよね。シーソーのように、片っぽが下がったら片っぽが上がる、そういうバランスをとっている感じがイメージにでてきて、“言葉を食べて写真にして、写真を食べて言葉になる”っている相互関係を一個のワードにしました。
■写真と詩の展示ということですが、この二つを組み合わせたのはなぜですか?
小学校一年生から俳句をやっていて、写真は小学校五年生の時から好きで写真を撮り始めました。私のなかで、この二つを別の物としての扱うというのがあんまりなくて、創作に関してあまり変わらない主軸でこの二つをやってきたので、むしろ写真と言葉がバラバラにカテゴリー化される方が不思議という感覚です。
■俳句との出会いはいつ頃ですか?
小学校一年生の時に芭蕉記念館のジュニア俳句教室に母の勧めで行き始めたのがきっかけです。大きくなってくると友達と悪口を言ったり、汚い言葉を覚えちゃうから、その対策として、大人になった時に自分にとってのきれいな言葉に戻ってこられるように俳句はいいんじゃないかと思ったようです。
あとは祖父母が俳句をやっていたので、思春期を過ぎてだんだん話さなくっても、共通の趣味があれば話のきっかけになのでは、という想いもあったようです。
きっかけはそれなんですが、通うようになったのは初めて行った俳句教室で自分の詠んだ句が投票で一番になったからですね。句会って選ばれる度に一句まるまる読まれるんですけど、結構な頻度で他の人に自分の句が読まれたのが気持ちよくて(笑)
■我楽さんにとって俳句の魅力ってなんですか?
小学校1年生で初めて俳句を作った時って、言葉を知らないから“嬉しい”とか“楽しい”を入れるんですよ。でも、それを違う言葉で表現するのが俳句なんだよって俳人の方から教わって。嬉しいとか楽しいとかを違う言葉を使って、いかに五・七・五の17音(おん)に詰め込むか。「かわいいってどういうこと?」って、観察して考えて、言葉の数を増やしていって。一個の単語から樹形図のように言葉が広がっていくのを楽しんでいる感じですね。
■アーティスト名の我楽は俳句と関連しているんですか?
NHKの俳句王国のUnder 16に呼んでもらった時、子ども達に俳号をつけようっていう話になって、私の父が他の子に俳号をつけたんですよ。それが羨ましくて父にねだったら、松山のまる裏俳句甲子園の会場で「我、楽しむで我楽(がら)だ。」って言わて、決まりました。帰りのタクシーで、「苗字も欲しい!」ってねだったら、「いろはにしろ」って言われ、中二の冬に『いろは がら』と名づけられました。最初は一六八だったんですけど、どうも我楽の名前に対して画数のバランスが悪いと思ったので、自分で勝手に“一”を“五”にして『五六八 我楽』にしました。我楽は父の造語なのか、詳しく聞いたことはないですけど、ガラっていう濁点の音を重視したんじゃないかな。
■今回の対談のお相手・城野一哉(じょうのいちや)さんとは俳句が出逢いとか?
そうなんです、元々NHKの俳句王国が出逢いですね。小学校から俳句を始めた人も少なかったですし、同じ年でいまだに続けている人も珍しいです。俳句を続けながら、彼も映像の方に進んだので、お互いメディアに行くんだ〜と思いました。今回、写真と言葉の展示なので、彼だったら両方をやっているからこそできるから話がある気がして、対談相手に頼みました。最近は彼の主催するLINE句会にも参加しています。
■LINEで句会ですか?!
LINEで20名くらいが参加する俳句のグループがあるんです。毎回この季語で、このテーマでという題材をだされ、参加者は2句か3句ぐらい出すんです。それがPDFにまとめられて、グループLINEに送られてくる。参加者が選句と一緒に評や感想を書いて返信すると、今度はそれがまとまったPDFがまた送られてくる。メンバーの半分くらいがいつも参加していますが、おもしろいですよ。
■では次に写真、カメラについて伺いますが、始めたきっかけは?
カメラを始めたのは、俳句教室に手のひらサイズのデジカメを持っていったのがきっかけです。当時2〜3歳上のお友達がいたんですが、その子を撮ったのがとても楽しくて。シャッターを切る度に、その子が勝手にポーズを変えてくれて。「次こうして!」とか言わなくても、ちゃんと画角に合うように手を組んだり、足を変えたりしてくれるんです。シャッターの音とポーズを変える音が響いているだけで、その無言のやり取りがおもしろかったですね。
あとは額にカチッと入るような感じもおもしろいなって思いました。
■額ですか?
小さい頃から美術館によく連れていってもらっていたんですが、私にとって写真は額に描いてある油絵と似ている気がして。絵画に額縁があるように、写真にはフレームがある。でも写真撮る時の感覚は、フレームではなく額縁みたいなのが見えるんですよね。どう入れて、どうはみ出すか、とか考えるのが楽しいです。
最近思うのは、シャッターを切る瞬間というのは、パズルの最後のピースがカチッ!って、ハマる瞬間のようだなって思います。写真を撮るという行為はこの『あ!きた』というのが、ずっと続いているような感じです。いいタイミングみたいなのがくるんですよね。
■写真はどういったものをテーマに撮られていますか?
洗濯物や鯉のぼり、祖父の畑などをテーマにして撮ってきました。どれも5〜6年は撮り続けています。鯉のぼりは2015年から毎年各地に行って撮っていますし、洗濯物はいい瞬間をみつけたら勝ち!という感じでライフワーク化しています。どれも区切りがないものなので、なにかの機会で一旦区切っても「完成したのか?」と言われるとそういう気がしなくて。洗濯物なんて、日本が晴れている限り永遠続きます(笑)
■写真を撮るときのこだわりやルールみたいなものはありますか?
自分が主軸で関与しないということを重要視しています。祖父の畑をテーマに撮っていたのですが、祖父の畑は親戚だけど他人の家なので、祖父がスノードームの中にいて畑を動かしているのを、私はその外側でみているだけ、というような立場です。
■道具へのこだわりはありますか?
カメラは中学に入ったとき、入学御祝いで初めて一眼レフを買ったものを色が好きで今も使っています。NikonのD60っていう機種なんですが、映像が取れない最後の一眼なんです。大学に入った時にNikonの一眼レフを買い直したんですけど、どうも色がちょっと違うなと思って。白色電球が好きなのに、LEDになっちゃったみたいな感覚ですね。ちゃんと撮んなきゃいけない時は新しい方で撮るんですけど、それ以外の自分でただ撮りに行くっていうような時は割とD60の方を使いますね。
■写真と言葉、両方に重きを置いているようですが、美大に進学を決めたのはなぜですか?
小さい頃から毎週のように美術館にいって、暇なときは画集を開いたり、美術館のポストカードを見たり、握ったりして遊んでいました。父の実家には大きな油絵があって、自分の家には石膏像もありました。こういう環境で育ったので、文系や理系に行こうと思うのと同じように、私は美大に行くものだと思っていました。むしろ一般大学に行く方がイレギュラーで、周りも寸分の疑いもなかったと思います。
■今回の展示『言食写真-夏-』はなにがテーマですか?
サブタイトルにある-夏-というのが一つのキーワードなんですけど、今まで撮っていたものを見直してまとめてみるという制作スタイルを初めてやってみました。いつもは、まず撮りたいものが先に決まって、それをどういう作品に仕上げるのかという構成が多いので。
ここ数年(コロナ禍で)夏がなかったようなものなので、今まで普通にできていたことができなくなって、だから余計に夏があまり好きじゃないのに、「夏になにをやっていたっけ?」と振り返るような時間が増え、改めて見直す機会となりました。自分とすごく距離が遠い季節だったはずなのに、振り返ると「確かにちゃんと夏をやってたな」って思ったので、その“ちゃんと過ごしていた夏”みたいなのをきちんと自分で認識するためにアウトプットしました。写真を文章にしながら、自分がどういう人と出会って、どういう関わり方をして夏を過ごしていたのか、みたいなのを少し考えた作品になっていると思います。
■今回の展示について、来場者の方へ一言お願いします。
展示する写真は、祭りでお神輿を担いでる中で撮ったものや、海の家で句会をやっている時のものだったり、今までに撮ってきた夏の写真になります。観る人との経験とは違うと思いますが、お祭りとか海とかそういう体験は観る人と共有できるのかなと思います。
また、私の創作のルーツというか起源は俳句からきているので、写真に添えられている言葉も楽しんでいただけたら嬉しいです。私だけかもしれませんが、文章と目があって頭の中で音読する時に、自分の声が響くんですよね。読んだ時に一番流れがいい状態である文章を自分では目指していて、例えば読んだ時に句読点がなくても突っかからないとか、そういう些細なことなんですけど、頭の中が気持ち良くなるような流れの気持ちよさを味わってもらえたらいいなと思います。
パリコレッ!ギャラリーvol.12
我楽「言食写真- 夏 - 」
町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第12弾!
写真を食べて、言葉になる。言葉を食べて、写真にする。
まるでシーソーのように、写真と言葉を行ったり来たりしながら紡いだ、言葉と写真の夏の短編集。
俳句から始まった言葉の感覚と、写真のフレームで切り取っていく感覚を、少しずつチューニングしていく。
日 付:2021年8月21日(土)~29日(日)
時 間:11:00〜18:00
※22日(日)は15:00〜16:00の間CLOSE
※27日(⾦)、28日(⼟)は20:00まで